交通事故の治療|後遺症を残さないための完全ガイドと最適な病院・整骨院選び②
5. 後遺症を残さないための交通事故治療の進め方
交通事故に遭い、治療を受ける上で最も重要な目標の一つは、後遺症を残さずに元の生活に戻ることです。そのためには、適切な治療を適切な期間継続し、必要に応じて専門家のサポートを得ることが不可欠となります。ここでは、後遺症を残さないための治療の進め方について詳しく解説します。
5.1 治療期間と症状固定の重要性
交通事故による怪我の治療は、症状が完全に改善するまで、あるいはこれ以上治療を続けても症状の改善が見込めないと医師が判断するまで継続することが重要です。自己判断で治療を中断してしまうと、症状が悪化したり、後遺症が残るリスクが高まったりするだけでなく、保険会社からの補償が打ち切られる可能性もあります。
5.1.1 治療期間の目安と継続のポイント
むち打ち症のような比較的軽度な怪我でも、治療には数ヶ月を要することが一般的です。骨折や神経損傷など重度な怪我の場合は、年単位の治療期間が必要となることもあります。治療期間中は、医師の指示に従い、リハビリテーションを含め、根気強く治療を継続することが何よりも大切です。
特に、保険会社から治療の打ち切りを打診されるケースがありますが、まだ症状が残っている場合は安易に応じるべきではありません。医師と相談し、治療の必要性を明確に伝え、必要に応じて治療継続の交渉を行うことが重要です。
5.1.2 症状固定とは何か、その重要性
症状固定とは、これ以上治療を続けても症状の改善が見込めないと医師が判断した状態を指します。症状固定の判断は、治療の終了時期や後遺障害の有無、そして損害賠償額に大きく影響するため、非常に重要な節目となります。
症状固定と判断された場合、それ以降の治療費は原則として保険会社から支払われなくなります。また、症状固定時に残存する症状が「後遺障害」として認定されるかどうかの判断が行われることになります。
症状固定の判断は、必ず主治医が行うものです。患者自身がまだ症状が残っていると感じる場合は、医師と十分に話し合い、納得がいくまで治療を継続するよう求める権利があります。安易な症状固定は、将来の後遺障害認定や適切な賠償を受ける上で不利益となる可能性があるため、慎重な判断が求められます。
5.2 専門医によるセカンドオピニオンの活用
現在の治療方針や症状の改善状況に不安や疑問を感じる場合、別の医師の意見(セカンドオピニオン)を聞くことは非常に有効な手段です。セカンドオピニオンは、治療の選択肢を広げ、より納得のいく治療を受けるための重要なプロセスとなります。
5.2.1 セカンドオピニオンのメリット
セカンドオピニオンを受けることで、以下のようなメリットが期待できます。
現在の診断や治療方針の妥当性を確認できる。
別の視点からの診断や、新たな治療法の提案を受けられる可能性がある。
後遺症の可能性や、将来的な見通しについて異なる意見を聞くことができる。
患者自身が治療に対する理解を深め、納得して治療を進めることができる。
特に、症状が長引いている場合や、後遺障害の可能性が示唆されている場合には、より専門的な意見を聞くことで、適切な治療方針を決定する助けとなります。
5.2.2 セカンドオピニオンを検討すべきケース
以下のような状況に当てはまる場合、セカンドオピニオンの活用を検討することをおすすめします。
現在の治療を受けても症状がなかなか改善しない。
医師から症状固定を打診されたが、まだ痛みやしびれなどの症状が残っている。
医師の説明に納得できない、あるいは不安を感じる。
後遺症の可能性について、より専門的な意見を聞きたい。
複数の医療機関での治療を検討している。
セカンドオピニオンを受ける際は、現在の主治医に紹介状や検査データ(レントゲン、MRIなど)の提供を依頼し、それらを持参して別の医療機関を受診しましょう。これにより、効率的かつ正確な意見を得ることができます。
5.3 後遺症認定と慰謝料請求の基礎知識
交通事故の治療を続けても残念ながら症状が残ってしまい、それが症状固定と判断された場合、残存した症状が「後遺障害」として認定される可能性があります。後遺障害の認定は、適切な慰謝料や損害賠償を受ける上で極めて重要なプロセスです。
5.3.1 後遺障害認定のプロセスと重要性
後遺障害の認定は、以下のステップで進められるのが一般的です。
症状固定の診断と後遺障害診断書の作成: 主治医が症状固定と判断した後、残存する症状について「後遺障害診断書」を作成します。この診断書は、後遺障害の有無や等級を判断するための最も重要な書類となります。
自賠責保険会社への申請: 作成された後遺障害診断書やその他の必要書類を添えて、自賠責保険会社に後遺障害の認定を申請します。申請方法には、被害者自身が行う「被害者請求」と、加害者側の任意保険会社を通じて行う「事前認定」の2種類があります。被害者請求の方が、手続きは複雑ですが、より詳細な資料を提出できるため、適切な等級認定に繋がりやすいとされています。
損害保険料率算出機構による審査: 自賠責保険会社から書類が送付され、損害保険料率算出機構(またはその指定機関)が、提出された書類に基づいて後遺障害の有無や等級を審査します。必要に応じて追加資料の提出を求められたり、面談や医師の診察が行われたりすることもあります。
後遺障害等級の認定: 審査の結果、後遺障害に該当すると判断されれば、その症状に応じた等級(1級から14級まで)が認定されます。等級が認定されなかった場合でも、「非該当」という結果が通知されます。
後遺障害の等級は、後遺障害慰謝料の金額や逸失利益(事故がなければ将来得られたであろう収入の損失)の算定に直接影響するため、その認定は非常に重要です。
5.3.2 慰謝料の種類と算定基準
交通事故の被害者が請求できる慰謝料には、主に以下の種類があります。
入通院慰謝料(傷害慰謝料): 交通事故による怪我の治療のために、病院への通院や入院を余儀なくされたことに対する精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。治療期間や通院日数によって算定されます。
後遺障害慰謝料: 症状固定後も残存する後遺障害に対する精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。後遺障害等級に応じて金額が決定されます。
これらの慰謝料の算定には、以下の3つの基準があります。
| 算定基準 | 概要 | 慰謝料額の傾向 |
|---|---|---|
| 自賠責基準 | 自賠責保険が定める最低限の補償基準。被害者保護の観点から設けられている。 | 最も低額 |
| 任意保険基準 | 各任意保険会社が独自に定める基準。自賠責基準よりは高いが、弁護士基準よりは低いことが多い。 | 中程度 |
| 弁護士基準(裁判基準) | 過去の裁判例に基づいて算定される基準。弁護士が交渉する際に用いられる。 | 最も高額 |
適切な慰謝料や損害賠償を受けるためには、弁護士基準での交渉を目指すことが非常に重要です。保険会社は通常、自社の任意保険基準や自賠責基準で示談を提示してくることが多いため、専門家である弁護士に相談し、交渉を依頼することで、より有利な条件で示談を進められる可能性が高まります。
後遺障害認定の結果に不服がある場合、異議申し立てを行うことも可能です。この際も、弁護士や専門家のアドバイスを得ることが望ましいでしょう。
6. 交通事故の治療費と保険制度の仕組み
交通事故に遭い、治療を受ける上で最も気になることの一つが「治療費」ではないでしょうか。原則として、交通事故の治療費は加害者側が負担しますが、その支払いには複雑な保険制度が介在します。適切な治療を継続し、後遺症を残さないためにも、この保険制度を正しく理解することが極めて重要です。ここでは、交通事故の治療費をめぐる自賠責保険と任意保険の役割、そして治療費の支払いから示談交渉に至るまでの注意点について詳しく解説します。
6.1 自賠責保険と任意保険の適用範囲
交通事故の治療費や損害賠償をカバーする保険には、主に「自賠責保険」と「任意保険」の2種類があります。これらはそれぞれ異なる役割と適用範囲を持ち、相互に補完し合う関係にあります。
6.1.1 自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)
自賠責保険は、自動車やバイクの所有者すべてに加入が義務付けられている強制保険です。その目的は、交通事故の被害者を救済することにあります。物損事故には適用されず、人身事故の被害者のみを対象とします。
補償内容と限度額:
傷害による損害(治療費、休業損害、慰謝料など):上限120万円
後遺障害による損害:上限75万~4,000万円(等級による)
死亡による損害:上限3,000万円
治療費の対象:
診察料、検査料、投薬料、手術料、入院料、リハビリテーション費、通院交通費などが含まれます。
過失割合の影響:
被害者に一定の過失がある場合でも、基本的には補償額が減額されることはありません(重過失の場合を除く)。
請求方法:
加害者側の保険会社を通じて請求する「加害者請求」と、被害者が直接自賠責保険会社に請求する「被害者請求」があります。
6.1.2 任意保険
任意保険は、自賠責保険の補償内容だけでは不足する部分を補うために、ドライバーが任意で加入する保険です。自賠責保険と異なり、多様な特約があり、補償範囲を広げることができます。
主な補償内容:
対人賠償保険: 相手方の死傷に対する賠償。自賠責保険の限度額を超える部分を補償します。
対物賠償保険: 相手方の車両や物損に対する賠償。
人身傷害保険:
契約者自身や同乗者が死傷した場合の治療費、休業損害、慰謝料などを補償します。過失割合に関わらず、自身の保険会社から保険金が支払われる点が大きな特徴です。
搭乗者傷害保険: 契約車両に搭乗中の事故による死傷を補償します。
無保険車傷害保険: 加害者が無保険だった場合に、契約者自身の損害を補償します。
弁護士費用特約:
交通事故に関する弁護士費用を保険会社が負担する特約です。弁護士に依頼することで、適正な賠償額を得やすくなるため、加入が強く推奨されます。
過失割合の影響:
任意保険の賠償額は、被害者側の過失割合に応じて減額されるのが一般的です。
6.1.3 健康保険・労災保険の活用
交通事故の治療では、加害者側の保険を利用するのが一般的ですが、場合によっては自身の健康保険や労災保険を利用することも可能です。
健康保険の利用:
交通事故でも健康保険を利用できます。この場合、「第三者行為による傷病届」を健康保険組合に提出する必要があります。
メリットとしては、被害者にも過失がある場合に、治療費の自己負担分を抑えられる可能性があります。健康保険を使えば、医療費の3割負担で済み、残りの7割は健康保険が立て替え、後日加害者側に請求します。
労災保険の利用:
通勤中や業務中の交通事故であれば、労災保険が適用されます。
労災保険を利用した場合、治療費は全額支給され、休業補償なども手厚い場合があります。
以下に、自賠責保険と任意保険の主な違いをまとめました。
| 項目 | 自賠責保険 | 任意保険 |
|---|---|---|
| 加入義務 | 強制加入 | 任意加入 |
| 補償対象 | 人身事故の被害者のみ | 対人・対物、契約者自身や同乗者など幅広い |
| 補償範囲 | 傷害120万円など、最低限の補償 | 自賠責の不足分を補填、手厚い補償が可能 |
| 物損事故 | 対象外 | 対象(対物賠償保険など) |
| 過失割合の影響 | 軽微な過失では減額なし | 過失割合に応じて減額される |
6.2 治療費の支払いと示談交渉の注意点
交通事故の治療費の支払い方法はいくつかあり、また、治療終了後に行われる示談交渉には多くの注意点が存在します。これらのプロセスを適切に進めることが、後遺症を残さずに治療を終え、適正な賠償を受けるために不可欠です。
6.2.1 治療費の支払い方法
交通事故の治療費は、通常、以下のいずれかの方法で支払われます。
加害者側の保険会社による「一括対応」:
最も一般的な方法です。加害者側の任意保険会社が、被害者の治療費を直接医療機関に支払います。被害者は窓口での支払いが不要となり、治療に専念できます。
被害者による一時立て替え:
加害者側の保険会社が「一括対応」をしない場合や、健康保険を利用しない場合は、被害者が一時的に治療費を立て替えることになります。立て替えた費用は、後日、加害者側の保険会社に請求します。
健康保険の利用:
前述の通り、自身の健康保険を利用することも可能です。この場合、窓口で自己負担分(通常3割)を支払い、残りは健康保険が負担します。最終的に健康保険が加害者側に求償します。
人身傷害保険の利用:
ご自身が加入している任意保険の「人身傷害保険」を利用して治療費を支払うこともできます。この場合、ご自身の過失割合に関わらず、保険会社から治療費が支払われます。
6.2.2 治療費打ち切り問題への対応
交通事故の治療が一定期間続くと、加害者側の保険会社から「治療費の打ち切り」を打診されることがあります。これは、保険会社が「これ以上の治療は不要」と判断したためですが、安易に同意すべきではありません。
医師との相談:
治療の継続が必要かどうかは、必ず主治医と相談し、医師の判断を仰ぎましょう。医師が治療の継続が必要と判断した場合は、その旨を保険会社に伝え、治療継続を主張することが重要です。
治療の継続:
打ち切りを打診されても、治療が必要であれば継続してください。その間の治療費は一時的に自己負担となる可能性がありますが、後日、示談交渉で請求することができます。
弁護士への相談:
治療費打ち切り問題は、専門的な知識が必要となるケースが多いため、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
6.2.3 示談交渉の進め方と注意点
>>治療が終了し、症状が固定(これ以上治療しても改善が見込めない状態)と診断されてから、加害者側の保険会社との間で示談交渉が始まります。
示談交渉の開始時期:
治療中に示談交渉を進めるのは避けるべきです。治療が完全に終わる前に示談してしまうと、将来的に発生する可能性のある治療費や後遺症に対する補償が受けられなくなる恐れがあります。
慰謝料の算定基準:
交通事故の慰謝料には、主に以下の3つの算定基準があります。提示される示談金額がどの基準に基づいているかを確認しましょう。
自賠責基準: 自賠責保険が定める最低限の基準。最も低額です。
任意保険基準:
各任意保険会社が独自に定める基準。自賠責基準よりは高額ですが、弁護士基準よりは低額です。
弁護士基準(裁判基準):
過去の裁判例に基づいて算出される基準。最も高額であり、弁護士が交渉することでこの基準での賠償が期待できます。
過失割合の重要性:
示談交渉において、被害者と加害者の「過失割合」は非常に重要です。被害者にも過失があると判断された場合、その割合に応じて賠償額が減額されます。過失割合に納得できない場合は、安易に合意せず、弁護士に相談しましょう。
示談書への署名:
示談書に一度署名してしまうと、原則として後から内容を変更することはできません。提示された示談内容に疑問や不安がある場合は、必ず署名する前に弁護士に相談し、内容を十分に確認してください。
以下に、慰謝料の算定基準の比較をまとめました。
| 算定基準 | 特徴 | 金額水準 |
|---|---|---|
| 自賠責基準 | 自賠責保険による最低限の補償 | 最も低額 |
| 任意保険基準 | 各任意保険会社が独自に設定 | 自賠責基準より高額だが、弁護士基準より低額 |
| 弁護士基準(裁判基準) | 過去の裁判例に基づき算出 | 最も高額 |
7. 交通事故の治療に関するよくある疑問
7.1 弁護士に相談するタイミングとメリット
交通事故の治療を進める中で、法的な疑問や保険会社との交渉に不安を感じる方は少なくありません。弁護士に相談することで、治療に専念できる環境を整え、適正な賠償を受けられる可能性が高まります。
7.1.1 弁護士に相談すべきタイミング
弁護士への相談は、事故直後から可能です。特に、以下のタイミングで相談を検討することをおすすめします。
| タイミング | 具体的な状況と相談のメリット |
|---|---|
| 事故直後 | 初期対応や警察への連絡、保険会社への報告など、事故直後の混乱期に適切なアドバイスを得られます。 治療開始時の注意点や、今後の手続きの流れについて理解を深めることができます。 |
| 治療中 | 治療の進め方や、医師とのコミュニケーション、必要な検査の有無などについて、法的な視点からアドバイスを受けられます。 保険会社からの治療費打ち切り打診があった際に、適切な対応を検討できます。 症状固定の時期や、後遺障害診断書作成に向けた準備について、専門的なサポートが得られます。 |
| 症状固定後 | 後遺障害等級認定の申請手続きや、後遺障害診断書の内容確認において、弁護士の専門知識が非常に重要になります。 保険会社から提示される示談金額が適正かどうかを判断し、増額交渉を依頼できます。 |
| 保険会社との交渉に不満がある場合 | 過失割合や提示された賠償金額(慰謝料など)に納得できない場合、弁護士が代理人として交渉にあたります。 交渉が難航している場合や、精神的な負担が大きい場合に、専門家が介入することで解決への道が開けます。 |
7.1.2 弁護士に相談するメリット
弁護士に相談・依頼することで、以下のような多岐にわたるメリットがあります。
保険会社との交渉を任せられる
保険会社との煩雑なやり取りや交渉を弁護士が代行するため、精神的な負担が大幅に軽減され、治療に専念できます。
適正な賠償金(慰謝料)の獲得
保険会社が提示する示談金額は、必ずしも適正な金額とは限りません。弁護士は、過去の判例や専門知識に基づき、裁判基準(弁護士基準)での賠償金(治療費、休業損害、慰謝料など)の増額交渉を行います。
後遺障害等級認定のサポート
後遺障害等級の認定は、その後の賠償金額に大きく影響します。弁護士は、適切な後遺障害診断書の作成指導や、異議申し立て手続きなど、専門的なサポートを提供します。
法的なアドバイスと安心感
交通事故に関する複雑な法律や手続きについて、専門家から具体的なアドバイスを受けることで、安心して治療や手続きを進めることができます。
治療費打ち切りへの対応
保険会社から治療費の打ち切りを打診された場合でも、弁護士が医師の意見を基に交渉を行い、治療期間の延長や治療費の継続を求めることができます。
7.2 治療費と保険に関する疑問
交通事故の治療費は、患者にとって大きな懸念事項の一つです。保険制度の仕組みを理解し、適切に利用することが重要です。
7.2.1 交通事故の治療費はいつまで支払われる?
交通事故の治療費は、通常、加害者が加入している自賠責保険や任意保険から支払われます。しかし、無期限に支払われるわけではありません。
治療費の支払いは、原則として「症状固定」と判断されるまでとなります。症状固定とは、これ以上治療を続けても症状の改善が見込めない状態を指します。症状固定の時期は、医師が判断し、保険会社との間で調整が行われます。
保険会社から治療費の打ち切りを打診されることがありますが、医師がまだ治療が必要と判断している場合は、安易に応じず、医師や弁護士に相談することが重要です。
7.2.2 健康保険は使える?
交通事故の治療に健康保険を利用することは可能です。交通事故の治療は自賠責保険や任意保険が優先されると誤解されがちですが、健康保険法には、交通事故を理由に健康保険の利用を制限する規定はありません。
健康保険を利用するメリットとしては、以下の点が挙げられます。
治療費の自己負担割合が抑えられる
自賠責保険には傷害部分で120万円という上限がありますが、健康保険を利用することで、この上限を超えた場合の自己負担を抑えることができます。
過失割合が大きい場合でも利用可能
ご自身の過失割合が大きい場合、加害者の保険から全額の治療費が出ない可能性があります。そのような場合でも、健康保険を利用すれば、自己負担分を抑えられます。
ただし、健康保険を利用する際は、加入している健康保険組合に「第三者行為による傷病届」を提出する必要があります。これは、健康保険組合が加害者側に治療費を請求するための手続きです。
7.2.3 治療費の打ち切りを打診されたら?
治療期間が長引くと、保険会社から治療費の打ち切りを打診されることがあります。これは、保険会社が「そろそろ症状固定ではないか」と判断したためです。
しかし、医師がまだ治療が必要と判断している場合は、安易に打ち切りを受け入れるべきではありません。以下の対応を検討しましょう。
主治医に相談する
現在の症状や今後の治療方針について、主治医とよく話し合い、治療の必要性を明確にしてもらいましょう。医師の意見書が、保険会社との交渉において重要な証拠となります。
保険会社と交渉する
主治医の意見を基に、保険会社に対して治療の継続を求める交渉を行います。治療費の打ち切りは、保険会社の一方的な判断で行われるものではありません。
弁護士に相談する
ご自身での交渉が難しい場合や、交渉がうまくいかない場合は、弁護士に相談してください。弁護士は、法的な観点から保険会社と交渉し、治療費の継続や適切な賠償を求めます。
一時的に自己負担で治療を続ける
交渉がまとまらない場合でも、症状がある限りは治療を継続することが重要です。一時的に自己負担で治療を続け、後日、損害賠償請求の一部として治療費を請求できる可能性があります。
7.3 通院と治療の進め方に関する疑問
交通事故の治療は、適切な通院と治療計画が症状の改善と後遺症予防に繋がります。
7.3.1 適切な通院頻度は?
適切な通院頻度は、症状の程度や治療内容によって異なります。一般的には、事故直後の急性期には、週に3~4回程度の通院が必要とされることが多いです。症状が落ち着いてきたら、徐々に頻度を減らしていくのが一般的です。
重要なのは、主治医の指示に従うことです。医師が治療計画を立て、それに基づいて通院することが、最も効果的な治療に繋がります。自己判断で通院を中断したり、頻度を大幅に減らしたりすると、症状の悪化や治療の長期化を招く可能性があります。
また、通院頻度は慰謝料の算定にも影響を与えことがあります。不必要に多く通院する必要はありませんが、医師が必要と判断する頻度で適切に通院することが、適正な慰謝料を受け取るためにも重要です。
h4>7.3.2 仕事や家庭の事情で通院が難しい場合は?仕事や家庭の事情で、医師が指示する通院頻度を守ることが難しい場合もあるでしょう。そのような場合は、まず主治医に相談してください。
医師は、患者の状況を考慮し、通院頻度の調整や、自宅でできるリハビリテーションの指導など、代替案を提案してくれることがあります。例えば、通院回数を減らす代わりに、一度の治療時間を長くする、整骨院や接骨院との併用を検討するなど、柔軟な対応が可能な場合があります。
また、保険会社に対しても、通院が難しい事情を説明し、理解を求めることが重要です。しかし、通院が極端に少ないと、治療の必要性や症状との因果関係が疑われ、慰謝料が減額される可能性もあるため、注意が必要です。
7.3.3 途中で通院をやめてしまったらどうなる?
交通事故の治療を途中でやめてしまうと、様々な不利益が生じる可能性があります。
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症状の悪化や後遺症のリスク
治療を中断することで、症状が改善せずに悪化したり、後遺症が残るリスクが高まります。一度治療を中断すると、再度治療を開始しても、以前と同じ効果が得られないこともあります。 -
治療費や慰謝料の請求が困難に
治療を途中でやめてしまうと、保険会社から「すでに治癒した」と判断され、それ以降の治療費や、本来受け取れるはずだった入通院慰謝料の請求が難しくなることがあります。 -
後遺障害等級認定が受けられない可能性
症状固定前に治療を中断すると、後遺障害診断書が作成できず、後遺障害等級の認定を受けることができなくなります。これにより、後遺障害慰謝料や逸失利益といった、重要な賠償項目を請求できなくなる可能性があります。
もし、治療を継続することが難しいと感じた場合は、必ず主治医や弁護士に相談し、今後の対応について検討するようにしてください。
7.4 症状固定と後遺障害に関する疑問
交通事故の治療において、「症状固定」は非常に重要な概念です。その意味と、その後の後遺障害に関する手続きを理解しておきましょう。
7.4.1 症状固定とは具体的に何?
症状固定とは、交通事故による怪我の治療を続けても、それ以上症状の改善が見込めない状態を指します。つまり、「これ以上治療を続けても、症状が良くも悪くもならない」という医学的な判断が下された時点のことです。
症状固定は、単に「痛みがなくなった」という状態を指すわけではありません。痛みが残っていても、その痛みが治療によって改善する見込みがないと判断されれば、症状固定となります。症状固定の判断は、主に主治医が行います。
症状固定後は、原則として加害者側の保険会社からの治療費の支払いは終了します。そして、もし症状が残っている場合は、その症状が「後遺障害」として認定されるかどうかの手続きに進むことになります。
7.4.2 症状固定の時期は誰が判断する?
症状固定の時期は、主治医が医学的な見地から判断します。医師は、患者の症状の経過、検査結果、治療への反応などを総合的に評価し、これ以上治療を続けても症状の改善が見込めないと判断した時点で、症状固定と診断します。
ただし、保険会社が治療費の支払いを打ち切る際に、「症状固定」を打診してくることがあります。これは、保険会社が過去の事例や治療期間の目安から判断している場合が多く、必ずしも医学的な判断と一致するとは限りません。
そのため、保険会社から症状固定を打診された場合でも、必ず主治医と相談し、医師の判断を優先することが重要です。医師がまだ治療が必要と判断しているにもかかわらず、保険会社の意見に従って治療を中断すると、適切な治療を受けられなくなるだけでなく、後遺障害認定にも悪影響を及ぼす可能性があります。
7.4.3 症状固定後に痛みが残ったら?
症状固定と診断された後も、痛みやしびれなどの症状が残ることがあります。このような残存症状は、「後遺症」と呼ばれます。後遺症が残った場合、その症状が「後遺障害」として認定されるかどうかが、その後の賠償に大きく影響します。
後遺障害として認定されるためには、以下の手続きが必要です。
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後遺障害診断書の作成
症状固定後、主治医に、残っている症状やその原因、今後の見通しなどを記載した「後遺障害診断書」を作成してもらいます。この診断書は、後遺障害認定の最も重要な書類となります。 -
後遺障害等級認定の申請
作成された後遺障害診断書やその他の医療記録を基に、自賠責保険に対して後遺障害等級認定の申請を行います。申請方法には、加害者側の保険会社を通じて行う「事前認定」と、被害者自身が行う「被害者請求」があります。 -
等級認定と賠償
認定機関が書類を審査し、症状の程度に応じて1級から14級までの後遺障害等級が認定されます。等級が認定されると、それに基づいて後遺障害慰謝料や逸失利益(事故によって失われた将来の収入)などを請求できるようになります。
もし症状固定後に痛みが残った場合は、速やかに弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は、後遺障害診断書の内容確認や、適切な等級認定のためのアドバイス、申請手続きのサポートなど、専門的な支援を提供してくれます。
7.5 医療機関の選択と転院に関する疑問
交通事故の治療では、ご自身の症状に合った医療機関を選ぶこと、そして必要に応じて転院することも重要です。
7.5.1 現在通院中の病院・整骨院からの転院は可能?
はい、現在通院している病院や整骨院からの転院は可能です。ご自身の症状に合った治療を受けたり、通院しやすい場所に変更したりするために、転院を検討するケースは少なくありません。
転院を検討する際は、以下の点に注意しましょう。
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医師や治療院の許可は不要
転院に際して、現在通院している医師や治療院の許可を得る必要はありません。ご自身の判断で転院できます。 -
保険会社への連絡
転院する際は、必ず加害者側の保険会社に連絡し、転院先の医療機関名と連絡先を伝えましょう。これを怠ると、治療費の支払いが滞る可能性があります。 -
紹介状や医療情報の共有
転院先の医療機関に、これまでの治療経過や検査結果が分かる紹介状や診療情報提供書を持参すると、スムーズに治療を開始できます。現在通院中の医療機関に依頼して作成してもらいましょう。 -
転院の理由を明確に
不当に転院を繰り返すと、治療の必要性が疑われる可能性があります。転院の際は、治療効果が感じられない、通院が困難、セカンドオピニオンを求めるなど、明確な理由を持つことが重要です。
もし転院について不安がある場合は、弁護士に相談することで、適切なアドバイスを得られます。
7.5.2 複数の医療機関に通院できる?
はい、複数の医療機関に同時に通院することも可能です。例えば、整形外科で医師の診断と投薬を受けながら、整骨院や接骨院で手技による施術やリハビリテーションを受けるといったケースが一般的です。
複数の医療機関に通院するメリットは、それぞれの専門性を活かした治療を受けられる点にあります。ただし、以下の点に留意しましょう。
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主治医の同意を得る
整骨院や接骨院に通う場合は、必ず整形外科の主治医に相談し、同意を得るようにしましょう。医師の同意がないと、保険会社から整骨院での治療費が支払われない可能性があります。 -
保険会社への連絡
追加で通院する医療機関がある場合も、加害者側の保険会社にその旨を連絡し、承認を得ておきましょう。 -
情報共有の重要性
複数の医療機関に通院する場合は、それぞれの治療内容や症状の変化について、各医療機関で情報を共有することが非常に重要です。これにより、一貫性のある治療を受けられ、治療の重複や矛盾を防ぐことができます。 -
過度な通院は避ける
必要以上に多くの医療機関に通院したり、頻繁に通院しすぎたりすると、治療の必要性や合理性が疑われ、保険会社から治療費や慰謝料の支払いを拒否される可能性もあります。医師の指示に従い、適切な範囲での通院を心がけましょう。
複数の医療機関の併用を検討する際は、それぞれの役割を理解し、主治医と連携しながら、最も効果的な治療計画を立てることが大切です。
8. まとめ
交通事故の治療は、事故直後の適切な対応から始まり、後遺症を残さないための継続的な治療が何よりも重要です。整形外科などの病院と整骨院を賢く併用し、ご自身の症状に合わせた最適な治療計画を立てましょう。また、自賠責保険や任意保険の仕組みを理解し、必要に応じて弁護士に相談することで、治療費や慰謝料に関する不安を解消し、安心して治療に専念できます。このガイドが、皆様の早期回復と後遺症のない生活の一助となれば幸いです。
======平日23時まで、日・祝日も19時まで営業
八王子駅から徒歩4分の整骨院
駐車場も2台分あり
八王子市子安町4-15-19
☎042-641-2038‹
八王子南口整骨院
記事掲載 柔道整復師 熊野 箸
